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November 9, 2011
  パゴダの国に鳴り響く異世界の調べを聴いたか


現・新国立劇場舞踏監督であるデヴィッド・ビントレー氏がその劇場に掛けたバレエ公演「パゴダの王子」は、英国ロイヤル・バレエの礎を築いたニネット・ド・ヴァロア女史が氏に長年制作を勧めていたのだそうですが、ようやっと日本的文脈のなかでこのお伽噺を舞台化できる構想を得られたとのことで、この10月末から11月に亘って興行された新制作の舞台です。
衣装に十二単風衣冠束帯風があったり、妖怪が登場したり、舞台美術には歌川国芳の絵をモチーフにした背景を用いたりと、ビントレー氏がそれら日本の歴史的文化よりインスパイアされた糧の程を窺い知ることができました。

お話も原作(振付演出家、ジョン・クランコの筆による)から若干の読み替えを行なっており、主人公であるベラ・ローズ姫はさくら姫と、ここでも日本風に替えてありますが、(原作でローズの姉である)エピータがさくらの継母で権力欲に旺盛な皇后として存在、皇帝を幽閉し天下を自分のものとしたという設定は、原作以上に登場人物のリアリティを与す結果となったでありましょう。

是非、ビントレー版「パゴダの王子」のあらすじをお読みください。

音楽は英国二十世紀音楽を代表するベンジャミン・ブリテン。ビントレー氏への取材を為したバレエご専門の方から、それら記事(これこれ)を教えていただき興味を覚えたことと併せて、このブリテンの音楽に魅了されたのが、今回劇場へ足を運んだ理由でした。(わたくしが観たのは11月2日のマチネー公演。当日に天井桟敷席...ではなく此処ではZ席といふ超格安券を購入しての鑑賞でした。オーケストラ・ピットの中がよく見えて面白かったですよ。)

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第1幕では、外国からきた四人の王たちによるソロ・ダンスに惹かれました。ことに東の王(米国を模している)の疑似ステッキ・ダンス、そして西の王(中国を模している)はその弁髪姿からもツイ・ハークの映画でのアクションを想起させる疑似カンフー的。

第2幕は想像力を掻き立てられる幕でした。さくら姫はとかげ男とパゴダの国へ向かう旅に出ますが、その途中は記憶を遡る旅ではなかったでしょうか? 殊に「火」を超えてゆくところは、継母エピーヌや、四人の王たちも真っ赤な衣装で登場します。嫌な記憶です。その嫌な記憶の果てにパゴダ国はあり、なんと幼少のころの自分が其処にはいました。そして他界したはずのこれまた幼少時の兄の姿をも感じます。

ところでこのシーンでさくら姫は目隠しをされていた(その間だけ、とかげ男は姫の実兄の姿に戻る)のですが、その状態でもきちんと踊ることができる。舞台中央への移動も、ぴったりと足を運ぶことができる。振り付けというものを精度高く現出できるダンサーの技術のすごさです。
この日のさくら姫は、米沢唯さんという方でしたが、彼女の手のしなやかさはほんとうに美しい。別の舞台でも是非また見てみたいと思わせるものがございましたよ。

また先に記した「火」のシーンでの大胆で下世話な振り付け。こういうのは以前にも存在していたのでしょうか? コンテンポラリーなものではないのでしょうか? ガニ股踊りなのですよ。それを堂々と踊ったエピーヌ役の本島美和さんも格好よかったです。

そして第3幕、エピーヌや四人の王をやっつける、さくら、兄、帝ら皇室一家は棒術のエキスパートであったとは(このあたり京劇的)!
ところで、わたくしの拙い文章ではあまりに内容が雑多に感じられることと思いますが、これら様々な要素をすべてバレエの語法の中でやってのける振り付けと演出に興奮を隠せませんでした。

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さて、音楽のほうですが、第1幕で言及しました四人の王たちによるソロ・ダンスに付けられたものは、ストラヴィンスキーへの(殊にそのプリミティズムへの)オマージュではないでしょうか。
またさくら姫登場のシーンでの(さくら姫の)オーボエによる主題メロディはチャイコフスキー(白鳥の湖)へのオマージュに聴こえます。
(とかげ男=サラマンダーの存在を暗示する舞台裏から奏でられるトランペットのファンファーレは、その設定からマーラーを想起しますが、マーラーはバレエ作品を書いていないので関連性はないかもしれませんね)

そして、ブリテンが書いたこの作品のなかで、もっとも注目すべきはパゴダの国を描いた音。ゴングとシンバルの打撃音を合図に西洋楽器だけで奏でられる疑似ガムランです。
ピアノ、ピッコロ、シロフォンやゴング、そしてヴィブラフォンがペンタトニックの音階をとれば、それはもうバリ島です。
コンサート用組曲としてもほとんど演奏された機会のないこの「パゴダの王子」の音楽を聴けただけでも大収穫の舞台でした。

(現在唯一のノーカット全曲盤のCDは→これ。ロンドン・シンフォニエッタのシャープな演奏が素晴らしいです。)

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デヴィッド・ビントレー氏は来シーズンにはドリーブのシルビアを新国の舞台に掛けるそうで(ビントレー版の日本初演)期待したいです。
また同時期にオペラのほうですが、ブリテンの最高傑作「ピーター・グライムズ」が、英国音楽にめっぽう強い尾高忠明芸術監督のもと上演されるとのこと、こちらも併せて楽しみです。


(注)本文中に掲載しました写真は、2001年にバリ島で撮ってきたものですが、本舞台とは一切関係なく、あくまで私的に舞台から想起されたイメージです。

12:12 AM permalink | comments (0) | trackbacks (0)