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September 21, 2011

  彼の胸のうちの苦しみは音楽とともに昇華されたのであろうか

「うちではBSを観ることができません」
アンテナを購入設置していないだけなのですが、情けないツイットをしたところ、西に住む友人が親切にダビング10の十分の一を費やして送ってくださったのでした。
ということを経て先日放映されましたスティーブ・ライヒ新作「WTC 9/11」世界初演を含むコンサート映像を観ることができました。

(以下ネタバレご注意を)

番組の始めより、およそ三十分はライヒ氏とクロノス四重奏団のメンバーへのインタビューを含む、新作「WTC 9/11」作曲の動機や過程の説明に費やされておりました。
ライヒ氏は語っておりました。この曲で(音楽で)世界が変わるとは到底思えない。然し乍ら(彼はこれを)作らざるを得なかったと。彼からみれば子供の世代に当たるわたくしですが、それでも以下のように言ってあげたいと思いました。それで良いのですよ。あなたが為したこと、あなたが自身の欲求に添ってそれを拵えたことは正しいことであったと思います、と。

ではその新作「WTC 9/11」を聴いてみましょう。楽曲の概略的には、既に録音された様々な人間の声と、二組の弦楽四重奏の演奏(これらも当然クロノスによります)を再生しながら、三組目の弦楽四重奏を生で演奏しております。
これはライヒ氏とクロノスによる金字塔的作品、そう、戦前戦中戦後に渡り移動を繰り返し、ときには腕にナンバーの刻印入れ墨を彫られた人々と、彼らが移動する列車を表現しました「ディファレント・トレインズ」と同じであります。

ライヒ氏によりますと、新作「WTC 9/11」は三つの楽章を持ち、
 i. 9/11:管制官や消防士など当日現場にいた人々に話を聞いた。
 ii. 2010:2010年に彼の友人たちにあの日のことを話してもらった。
 iii. WTC:ユダヤの法では遺体は埋葬されるまで、その魂の救済のため(誰かが近くで)聖書を読み、讃美歌を歌うなどして魂に寄り添い、慰めなければならない。事件直後遺体安置所で徹夜で歌い続けていた女性ボランティアがいたことを思い出し、NY有数のユダヤ教会を訪ね「旅人の祈り(出エジプト記の一節)」を唱えてもらった、とのこと。

このコンサートは秀逸なプログラミングで出来上がっていると思いました。「WTC 9/11」演奏の前に「トリプル・クワルテット(98年)」「ザ・ケイブ(93年)からの抜粋」の演奏が用意されていたのです。(「WTC 9/11」のあとには、彼らの十八番「ディファレント・トレインズ」が控える。)
まず「トリプル・クワルテット」にて、既に録音済みの二組の弦楽四重奏の演奏のうえに三組目の弦楽四重奏を生で演奏することを見せ(聴かせ)、そして既に録音された人間の声=言葉の音程、抑揚、リズムを弦楽器で模倣し、ユニゾンしたり、追いかけたりする手法を、そしてヘブライ語の詠唱まで聴かせる「ザ・ケイブからの抜粋」を経ることは新作「WTC 9/11」への完全なる前哨戦とも言えるでしょう。

さて、「WTC 9/11」は精神的に厳しい音楽でした。正直なところ「ディファレント・トレインズ」を超えていたかと言えば、客観的に、純な音楽的評価としていかがなものであったろうと言葉を濁さざるを得ません。
然し乍ら聴覚に直接入り込み、脳に訴えかけてくる「既に録音された人間の声」が余りにも生々しいのです。わたくしは職業病だと思っているのですが、日頃聴きます歌もの音楽から歌詞をきちんと意味のある言語として捉えることが苦手で、どうしても人間の声という音色、言語というアーティキュレーションを持ったひとつの楽器的な聴き方をしてしまうのです。そのようなわたくしにさえ「WTC 9/11」から再生される人間の声は言語としての強い意思を持って、その意味が(テレビ画面のテロップに流される、英語、そして対訳日本語を見なくても)脳に入力されてきてしまったのです。
殊に第一楽章、管制官による「going wrong way」、そして「no contact with the pilot whatsoever」さらには「MAYDAY, MAYDAY」と繰り返される言葉はきついものでした。もしかしますとそれらの強烈な(音楽的)体験は、第三楽章の「旅人の祈り」の詠唱をもって慰撫されるのかもしれませんが、それはユダヤ教会に通ったことのある一部の人々に限られるのではないでしょうか。
即ちこの楽曲はライヒ氏の甚く個人的な内面の表れではないか、そこに芸術音楽としての普遍性が育まれる余地があるのかどうか、これからさらに聴き込んでゆきたいと思ったのでした。発売が延びておりましたCD(DVD付き)も9月20日に届きましたから。




拙ブログ:スティーブ・ライヒ関連記事「浄化を表す響き('08年7月5日記)



この日の番組ではライヒ新作初演コンサートの模様の後、ダニエル・バレンボイム指揮によりますウェスト・イースタン・ディヴァン・オーケストラのベートーヴェン第九交響曲演奏会も放映されましたようで、親愛なる友人はそちらもBDに収録してくださっておりました。こちらもとても楽しみ。
バレムボイム氏と世界の関わりはiGaさんのMADCONNECTION「バレンボイム/サイード 音楽と社会」を併読していただきたく存じます。



追記:そういえば、ライヒ氏の「ダニエル・ヴァリエーションズ」日本初演の際の映像(08年放映)も、ウェスト・イースタン・ディヴァン・オーケストラ(09年放映、ベートーヴェンのレオノーレとチャイコフスキーの悲愴)の映像も、アナログ放送受信時代に使っていましたレコーダーのHDDに録画が残っていると思い出しました。それらをDVD-Rに焼いて救出しておかなければ、、、

posted by mniijima : Sep 21, 2011

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