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自分が憂える国は、この家のまわりに大きく雑然とひろがっている。自分はそのために身を捧げるのである。しかし自分が身を滅ぼしてまで諌めようとするその巨大な国は、果してこの死に一顧を与えてくれるかどうかわからない。それでいいのである。ここは華々しくない戦場、誰にも勲しを示すことのできぬ戦場であり、魂の最前線だった。(「憂国」 三島由紀夫著より 新潮文庫「花ざかりの森・憂国」に所収)
自死を美化するようなことを讃えるわけにはいきませんが、それにしてもこの文章には、はっとさせられます。
そして三島由紀夫が巧緻なレトリックを凝らして描いたこの短編の文章すべてがあまりに美しく陶酔的であるため、生と死の尊厳を再考することを怠ってしまいそうな自分にふと気づき、危機感を募らせることになります。
三島が「憂国」を擱筆したのが「一九六〇、一〇、一六」と作品末尾にございますので、彼が自衛隊へ乗り込み、東部方面総監を拘束監禁し、バルコニーで演説を行った後、自らの腹を切り、介錯させ、命を絶つという、広く人口に膾炙した事件を起こしたのは、その十年後ということになります。
その問題の日、すなわち昭和45年11月25日に起きたことに対する衝撃や絶望と失望、唖然、愕然、反発、嫌悪、嘲笑などを感じた当時の社会の人々の反応を時系列に並べ、その事件を浮き彫りにした、「昭和45年11月25日 - 三島由紀夫自決、日本が受けた衝撃」中川右介著(2010年 幻冬社新書)を読みました。
continue reading "不在のサド侯爵は、周囲の人物の述懐によって浮かび上がる。"
12:56 PM permalink | 文学 | comments (6) | trackbacks (0)
先日、本年のジュネーブ国際コンクールでの、ファイナリスト3名による協奏曲の審査が行なわれた決勝演奏会のライブ映像を発見し、優勝されました萩原麻未さんのラヴェルの演奏について感想を記そうとしてから、幾許かの日をおいてしまいました。
その間、アルゲリッチが84年に再録音しましたドイツ・グラモフォン盤を入手したりしておりました。
その84年盤ですが、たいへん落ち着いた演奏になっており中堅からヴェテランの域にはいってゆくアルゲリッチを聴くことができると思います。その落ち着きはオーケストラ(67年と同じアバド指揮、オケはベルリン・フィルからロンドン交響楽団に変更)にも及んでおり、テンポだけでなく、アーティキュレーションに至るまで、さらりとした質感の演奏となっております。
さて、本年11月18日にスイスで行なわれましたジュネーブ国際コンクールでの、ピアノ部門ファイナリスト3名による決勝演奏会ですが、優勝しました萩原麻未さんの演奏(だけでなく他の2名も)を下記リンク先の映像によって楽しむことができました。
●Finale de piano du concours de Geneve
continue reading "若き日の瑞々しく輝く音色を誇れ(4)"
10:47 PM permalink | classical music | comments (0) | trackbacks (0)
土曜日(12月18日)の横浜で、ピエール・ロラン・エマールが、シャルル・デュトワ指揮のNHK交響楽団と、ラヴェルのピアノ協奏曲(ト長調)を弾いたそうです(既に15, 16日に東京サントリーホールで行なっていますが)。
エマールは、この夏にブーレーズ指揮でこの曲のCDをリリースし、それが注目を浴びておりますので、旬を感じさせる演奏会になったのではないでしょうか?
行きたかったなぁ。
過去、ラヴェルのピアノ協奏曲といえば、フランソワ盤や、ミケランジェリ盤、そして以前取り上げましたアルゲリッチの67年DG盤あたりが有名盤として紹介される機会が多かったのではないかと思いますが、先のエマールの新譜や、エマールの指揮をしているブーレーズによる94年、クリスチャン・ツィメルマンとの盤なども聴いてみたいところです。
さらには下記の盤も、、、
●アルゲリッチ(ベルティーニ指揮/ケルン放送響 85年 ライブ Capriccio盤)
●アルゲリッチ(デュトワ指揮モントリオール響 97年 ライブ EMI盤)
萩原麻未さんのコンクール決勝時の感想は今夜あたりにアップロード予定です。
7:00 AM permalink | classical music | comments (0) | trackbacks (0)
水路を求めて東京を歩いていますと、もう埋められてしまって、わたしたちが見ることの適わないものも多くあり、かつての東京にはそのように失われたものも含めて水路が縦横にめぐらされていたことが判ります。
銀座付近も例に漏れずにかつては数多の水路が走り、そしてそれらは、図書館などで見られるような資料だけでなく、文学や映画のなかの舞台となっており、現代のわたしたちにもおおよその姿を捉えることに役立っております。
三島由紀夫の名短編「橋づくし」は新橋の花柳界の女の子たちが願掛けのために七つの橋を巡ったものがたり。さすが三島の作品とあって、読んでいる方も多いですし、またそれら旧築地川を中心とした、本来の水路に掛かる橋であることを引退し余生を過ごす橋たちを巡り歩いて、文学の舞台となった場所を楽しむ方も多くいらっしゃるようです。
(●東京クリップ「銀座の橋」)
ところで、小説「橋づくし」で女の子たちが巡る橋は、三吉橋、築地橋、入船橋、暁橋、堺橋、そして備前橋の七つ(三吉橋が三叉なのを好いことに、女の子たちはそれをふたつ分とした)なのですが、それらの橋は現在「本来の水路に掛かる橋であることを引退し余生を過ご」しており、首都高速道路上と、その出口前後に掛かる、三吉橋、築地橋、入船橋。
(築地川を埋め立ててできた)築地川公園を横切る道路として、橋柱や欄干をほぼそのままに、残っております暁橋と備前橋。
ところが、橋として、その姿を確認し辛いものがひとつだけございます。「橋づくし」では六番目に現れます「堺橋」です。
ところが、この堺橋も、ふたつの橋柱の跡が残っているのです。
continue reading "ものがたりの名脇役よ、どうか目の前に現れておくれ"
12:04 AM permalink | earth diving | comments (4) | trackbacks (0)
このシリーズは(2)で取り敢えず終了し、もし萩原麻未さんの(ジュネーブ国際音楽)コンクール時の演奏がCD化されれば、そのときに続きを記そうかと考えていたのですが、そのコンクール、ファイナリスト3名による決勝演奏会の模様を録画しましたサイトを発見してしまいました。
●Finale de piano du concours de Geneve
(感想は、また後ほど)
12:15 PM permalink | classical music | comments (0) | trackbacks (0)
前回、わたくしは今年のジュネーブ国際音楽コンクール、ピアノ部門でラヴェルのコンチェルトを弾いて1位となった萩原麻未さんのコンクール時の演奏(CD化されるなどして)を聴くことができれば、1957年に同コンクールで1位となりましたマルタ・アルゲリッチのラヴェルと是非比較してみたいと記しました。
ところがアルゲリッチのコンクール時の演奏は、レコードやCD化されておりません。
とは云うものの、そのコンクール時の演奏を想像させるに充分な音源が存在するのです。
「Martha Argerich - Piano. Ravel, Chopin」
モーリス・ラヴェル / ピアノ協奏曲(ト長調)
オルケストル・デ・カメラ・デ・ローザンヌ
指揮:シャルル・デュトワ
(1959年1月19日 スイス、ローザンヌでのライブ)
フレデリック・ショパン / ピアノ協奏曲第1番(ホ短調 Op.11)
オルケストル・デ・ラ・スイス・ローザンヌ
指揮:ルイ・マルティニ
(1959年9月25日 スイス、ジュネーブでのライブ)
マルタ・アルゲリッチ (Piano)
(Label: Cosentino Producciones, No: IRCO275, アルゼンチン盤)
このライブ盤の演奏は、ジュネーブ国際音楽コンクールでアルゲリッチが優勝した2年後の1959年に収録されたもので、数年前に発売され、世に出てきた貴重な音源なのです。
continue reading "若き日の瑞々しく輝く音色を誇れ(2)"
5:39 AM permalink | classical music | comments (2) | trackbacks (0)
先だってのこと、日本人ピアニストが、ジュネーブ国際音楽コンクールで1位になったことが報じられ、ウイナーは俄にメディアの餌とされておりました。
その日本人ピアニストが優勝しましたジュネーブ国際音楽コンクールは70年の歴史があり、そのなかで(ピアノ部門では)ミケランジェリやグルダ、そしてアルゲリッチなど錚々たる人物が1位を獲っておりまして、その威厳を守るためか、たいへんな難関コンクールとして有名でございます。かの現役最高峰の巨匠ピアニスト、マウリッツォ・ポリーニでさえ、1957年にアルゲリッチに破れて2位とされ、翌年再挑戦し、トップの成績を収めるも1位なしの2位という評価が下される厳しさなのですから。
このようなコンクールで堂々の1位を勝ち取った萩原麻未(まみ)さんですから、メディアに注目されるのも解る気がいたします。
ところが、聴くところによりますと、メディアはこの栄えあるウイナーに対して、架空の人物である「のだめ」と対比しているのだそうです。それはコンクールとウイナーに対して失礼なことではないのかと思うのですが、、、いかがなものでしょうか(ご本人はイマドキな人でしょうから、満更でもなかったりして)。さらに音楽的な面で彼女を紹介する機会の少なさ。結局騒いでいるだけで、(わたくしも含めて)誰も彼女の演奏を聴いたことがないのです。
かつて海外のコンクールを制した日本人演奏家の何人かは、そのコンクールでの演奏がCD化されております。例えば02年にチャイコフスキー国際コンクールで優勝した上原彩子さんや、記憶にまだ新しい昨09年の辻井伸行さん(これやこれ)(ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクール)の優勝時のことですが、彼女、彼らのように今回の萩原さんのコンクール・ライブもCD化されないかしら。彼女が弾くラヴェルのコンチェルトを是非聴いてみたいのです。
そして前述いたしましたが、同コンクールで同じラヴェルを弾いて優勝したマルタ・アルゲリッチの演奏と比較してみたいものです。
音楽のことを語られることが少なかった今回の萩原麻未さんの報道の中で、唯一知り得たものを最後に紹介しておきたいと思います。11月19日の毎日新聞・夕刊、彼女の優勝を伝える記事のなかから、コンクールの審査員であった岡本美智子さん(桐朋学園大教授)の談話を引かせていただきます。
「萩原さんのラベルは自然に音楽が流れ、繊細で軽やかなタッチの美しい音色が魅力。特に3次予選のシューマンの『子供の情景』には審査員みんなが感動した」
とのことです。
6:44 AM permalink | classical music | comments (0) | trackbacks (0)
それは星降る空に、落葉も舞い散るかのごとく、目の錯覚を誘ったのでした。
特殊なコーティングが為された交差点。おそらくはより摩擦力があり、タイヤの滑り止めに有効と思われるザラザラな手触りの表面舗装が施された交差点に、落葉がそこを走った自動車のタイヤによって圧着されたのでしょう、ザラザラの路面に食い込み、こびりついていました。そして陽の落ちた時刻、街路灯がその黄葉を浮かびあがらせ、かつ特殊舗装の表面から灯に反射してキラキラと光る部位が、わたくしを魅了したのでした。
continue reading "目に映るは星降る空に舞い散る黄葉のごとく"
3:55 AM permalink | snap | comments (6) | trackbacks (0)
Bob Dylanの名作「The Freewheelin'」のジャケットでディランと腕を組んでいるのは当時の彼女だそうで、名前をSuze Rotoloと云います。そのRotoloさんの著作「グリニッチヴィレッジの青春」は未読なのですが、彼女の履歴にはなかなか興味深いものがあるようです。
無理矢理な展開となりますが、わたくしがまだ小僧であった中学生時代に組んでいたバンドでコピーしていた曲にBob DylanによるMr. Tambourine Manがございましたけれど、それをわたしたちはThe Byrdsのカヴァー・ヴァージョンからコピーをしていたのでした。
continue reading "いわば、わたくしの種明かし"
1:44 PM permalink | music | comments (4) | trackbacks (0)
「だらうか」と疑問のかたちで終止させたタイトル「遂にそれらが本格として顕現するのだらうか」を記してから大分時間を経ておりますが、それを記したとき、実はわたくしのなかで「疑問」はほぼ存在せず、確信さえ持っていたほどです。
ディジタルカメラで撮影し、高品位インクジェット・プリンターによってアーカイバル・プリントされた作品群が、あの芸術家のアナログ作品同様の美しいトーンを現しているのかどうかという点で、わたくしはそれらを見ぬうちから、あの芸術家がそれを前面に謳ってまで作品展を開くのだから、ディジタル・イクゥイップメンツは芸術家の要求に見事に応えている、或いは芸術家はそれらイクゥイップメンツを充分に手中にしたと確信をしていたのでございます。
TOMIO SEIKE 写真展 「Untitled」
目黒・Blitz Gallery (2010年9月17日~11月27日 会期終了)
continue reading "「だらうか」に籠めた確信犯的疑問符の行方"
12:51 PM permalink | 写真展 | comments (0) | trackbacks (0)
