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February 25, 2010
映画監督であります篠田正浩氏が著した「河原者ノススメ(幻戯書房 2009)」は豊富な資料を背景に日本芸能史をまとめあげた興味深い書籍でした。
篠田はいまにも血をつなげる芸能の系譜を、大陸や半島、さらにはアジア全域のアニミズムの影響を踏まえたうえで伎楽、散楽の輸入を起点とし、田楽、猿楽、そして能狂言への発展、またアルキ巫女や白拍子、琵琶法師の語る平曲などから、後世の説教、浄瑠璃、歌舞伎への発展などを、ただ時系列に並べるのではなく、その流れのなかで絶えず疎んじられた人々の姿がダイナミックに芸能を動かしていったことを再確認しております。
また(語り物などの)物語からは斯様な人々の悲哀や愁訴が滲みでていることも、この国の芸能史を確認してゆく上での要点であると気づかされます。
この書を読むにあたり、参考にしたいもの、
●日本の音-世界のなかの日本音楽 / 小泉文夫(平凡社ライブラリー)
音階構造など理論面からの考察などは玄人向きかもしれませんが、日本の音、音楽、芸能の全体像をまず浚うには絶好の書。
●日本の歴史をよみなおす (全) / 網野善彦(ちくま学芸文庫)
網野氏のなかでは「中世の非人と遊女(講談社学術文庫)」が直接的資料になりそうですが、まず網野史観のダイジェストとして読んでおきたいです。
●女性芸能の源流-傀儡子・曲舞・白拍子 / 脇田晴子(角川選書)
「河原者ノススメ」でも脇田氏の諸作はたくさん引用されておりました。
●日本藝能史六講 / 折口信夫(講談社学術文庫)
折口の「翁の発生」は篠田の書につながってゆきます。
●歌舞伎以前 / 林屋辰三郎(岩波新書184・絶版)
生憎絶版なのですが本当は一番のお勧め。古書相場では1,000円くらい。
ところで、「河原者ノススメ」のなかで岩佐又兵衛の名がでてきたことにはいたく驚かされました。
先だって見てまいりました洛中洛外図・舟木本は国立博物館においては「作者不詳」とされておりましたが、どうやら岩佐又兵衛の作という説があるのだそうです。ただし(彼の他の作品も含めて)独特の画風、装飾性から一個人の手になるのを不可とし、彼およびその工房によるものという解釈が大方な考えのようでございます。このように作者確定に至っていない作品であるとして国立博物館では作者不詳としていたのでしょう。
その岩佐又兵衛の驚くべき出自。織田信長へ謀反を起こし、そして逃亡した荒木村重という人物、その荒木の妻妾子女はみな信長に捕えられ惨殺されたのだそうですが、又兵衛は、荒木の実子であり、その難を逃れた生き残りだと言われているのだそうです。
(詳しくはwiki:荒木村重、および岩佐又兵衛の項を参照)
舟木本の鑑賞の後、わたくしはその時代がこんなにも享楽的な雰囲気だったのかと不思議な気持ちになったものでしたが、篠田によれば、
信長が君臨した疾風怒濤の時代に生を受け、豊臣徳川の血で血を洗う天下分け目の決戦を目の当たりにし、安土桃山文化の洗礼を満身に浴びた絵師であり、
かぶく時代思潮が湧き上がった現場を見ることができるのがこの舟木本だという解釈になるほどと感心したのでした。
この舟木本、次回の公開の際にも是非見に行きたいと、そして岩佐の(および工房の)ものと言われている他の作品、例えば「豊国祭礼図屏風(徳川美術館蔵)」や「山中常盤物語絵巻(MOA美術館蔵)」なども見てみたいと強く思ったのでした。
岩佐のことを記した章の末尾には閑吟集からの一首が引いてございました。
「何せうぞ くすんで 一期は夢よ ただ狂へ」(閑吟集より)
posted by mniijima : Feb 25, 2010
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