« リマスタリングの功罪(3) | main | みやこのあくしょいちろくまるまる »
February 8, 2010
発売を控えて一番最初に行なうマスタリング(或いはカッティング)作業時、少なくともその作品のプロデューサーは立ち会っているでしょう。アーティストが立ち会うようになったのはいつごろからでしょうか? アーティストがレコード制作において現在のような立場になるのは、恐らくはロックやSSW(Singer Song Writer)が台頭してきてからのような気がいたします。よって60年代後半、もしくは70年代になってからかもしれません。しかし、いずれにしろ制作に関わった人間がきちんとジャッジメントしているということは重要です。制作意図に沿わない処理にはNGをだしていたことでしょう。
もちろん現在でも(初出時の)マスタリング作業にはプロデューサー、アーティスト立会いのもと行なわれます。其処にはユーザーに「こう聴いていただきたい」という意思が込められているのです。
ところが過去作品のリマスター盤(となるような作品)では、もともとの音源が海外からのものが多いですし、オリジナルの発売から何十年も経ておりますと、プロデューサーやアーティストの思いなどが文章で残っているわけではございませんから、当時の制作というものはまったく解らない状況で作業を進行することになります。
とはいえ、リマスタリング盤が当時の音を再現していなければいけないとも限りません。
しかし、あまりにもカテゴライズされたイメージのなかでしか音を表現できていないと感じることが多いのです。単にハイサンプリング、24ビット処理のプロセスを通じ、倍音を伸ばし、低域を充実させるのがどれだけ音楽を豊かに語っていることになるのでしょうか?
それが制作された当時の音楽の環境が如何なるもので、どういった雰囲気、世界観が求められ、何故残っているマスターテープがそういう音をしており、その音楽を聴くユーザーがどんな音の再現を求めていらっしゃるのか、そして現代のわたしたちは如何なる方向でマスタリングをしなければならないのか、そういったことをしっかり思考して作業に望んでいるとは到底思えないのです。
なにも昨年発売となりましたThe Beatlesのリマスター盤のように全てのリマスタリングで、あのような膨大な時間とコストをかけて作業しなければならないと言っているのではありません。あれはThe Beatlesの音源だからこそなし得ることができた、極めて稀な事例なのです。
しかしながら、現在の制作担当者とマスタリング・エンジニアにはもう少し頑張ってもらいたいと思う気持ちは避けられません。
ユーザーに対して、一度購入したアルバム作品を、さらに音が良くなったからもう一度購入して聴いてみてください、と望むのであれば、大手レコード・メーカーは、ひとたびその音の作り方を再検討すべきではないか、でなければユーザーの音楽からの乖離を食い止めることはできないのではないかと事態を憂慮するのであります。
このような状況ですから、わたくしはそういった過去の作品に関しましてオリジナルのLPに、いたくいとおしい気持ちが湧くのでございます。
もちろん全ての過去音源においてオリジナルLPの音が最高で、CDはよくないと断裁しているのではありません。なかにはLP以上に溢れる音楽性を表現しているCDが存在するのも事実です。しかしながら、わたくしはオリジナル・メディア制作時のマスタリング、カッティング作業に立ち会ったアーティスト、プロデューサーの声を聞きたいと思うのですよ。音楽を通じた声を。
posted by mniijima : Feb 8, 2010
trackback
trackback URL for this entry:
http://www.mniijima.com/across/cgi/mt/mt-tb.cgi/397
comments
とても深く感銘を受けて 良い言葉が見つかりません。
ものを知らない人間ですので、ずれた事を書いてしまったらごめんなさい。
リマスターって難しいですね。
音楽という世界を どう捉えるかは、そのアーティストがどう捉えて欲しいと思っていたかという事から自由にはなれませんし、ファンが常に正しいとは思いませんが、ファンが聞きたいと思っている音もまた 存在するんですものね。
それを リアルタイムでは知らない人が関わる事もこれからは増える訳で・・・・。
M.Niijimaさんの様に色々なジャンルのいろんなアーティストの音を深く心の底から愛している人のマスタリングの作業は もう作業ではなく もう一つの音楽行為なんですね。ミュージシャンとは違う形でその音楽に参加しているんだと言う事。その事に なんだか 感動したのです。
もっと 機械的な要素の強い印象を持ってしまっていました。
良い事を教えていただきました。
by 光代 : February 8, 2010 11:03 PM
光代さん、いつもありがとうございます。
仰るとおり、ファンが常に正しいとは限りませんし、そのファンが求めていることを常に(アーティストが)受け入れていくことが、これまた正しいことかと言えば、場合によっては、となるでしょう。
ときにはファンが望んだものを打ち破って、違う世界観を提示することも必要でしょう。それが正しいか間違えているか、または成功につながるのか、つながらないかはまた別の話しであることはご理解の範疇だと思います。
(過去の音源を)リアルタイムで知らない人が関わることはいっそう増えてゆくのですが、実は指標が明確ではないのはアナログ時代のもの(マスターテープだけでは判断つかないことが多く、オリジナルLPなどがきちんと残っていなかったりしている)で、CD時代になってからの音源はたいてい初出時のCDが保存されていますから、それらがよい資料となってくれるでしょう。
そしてお察しいただいているとおり、音楽エンジニアリングというのは機械を使ってもあくまでそれらをコントロールするのは人間であり、その者の音楽的背景、理解、そういったものがとても大切な世界であることをご理解いただけたのであれば、とても嬉しいことです。
by M.Niijima : February 9, 2010 12:19 AM