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February 4, 2010

  リマスタリングの功罪(2)

大昔の音楽録音では、大きなラッパ状のもの=集音器の前で歌手も伴奏者も演奏をして、集音された音=振動がそのままレコード原盤の溝を切っていたのだそうです。(ベルリナーによる円盤レコードは1887年に発明されました。)これをアコースティック録音と呼んでいます。
それが電気吹き込みと呼ばれる時代になり集音器はマイクロフォンにとって替わり、また直接原盤を切るのではなく、いったん磁気テープに録音(1940年代ごろから)をしておいてから、後に原盤を切る作業(カッティング)を経てゆくことになります。ポリ塩化ビニルを用いたLP、EP盤はこのころに登場してきます。

まだまだこの時代、収録のためのマイクロフォンは1本だったようです。
音楽的な音量バランスをより良くしようとマイクロフォンの本数を増やし、それらをミキシング・コンソールという機械で混ぜ(ミックスし)、モノフォニック・マスターテープへアウトプットするようになるのは1950年代も半ば過ぎてから行なわれたようです。
クラシックのオーケストラは楽器の音量を踏まえた伝統的な配置があり、また音響に優れたホールで収録していましたから、マイク1本でもなかなか見事な音楽バランスをしているレコードが沢山ございます。さらにはレオポルド・ストコフスキー(映画「オーケストラの少女」やディズニーの「ファンタジア」で有名)という指揮者は音響理論、電気技術に至るまでの知識を持ち、よりレコード収録に向いた楽器配置を行なっておりました。


さて、昨今通常の音楽録音では、まずミュージシャンの演奏(およびヴォーカル)を収録するわけですが、クラシック音楽ならばその収録時にステレオ2トラック(ステレオは右と左のふたつのトラックでできているのです)にまとめてしまいますが、ポップスなどでは99%、マルチトラック録音をしております。
これは各楽器を別々のトラックに収録していくことをいいます。たとえ同時に演奏をしている楽器でもトラックを分けておきます。音楽の構造上、まずはリズムセクションと呼ばれるドラムス、ベース、ピアノを含むキーボード、ギター、時にはラテン・パーカッションなどのセッションをはじめに収録してから、後(日にちを経ている場合もあります)にその他の楽器類やヴォーカルやコーラスなどを(リズムセクションの演奏を聴きながら)そのうえに重ね録りしてゆきます(注1)。重ね録りはもちろん、それぞれ別のトラックに行なうのです。
このようなマルチトラック録音は1960年代にオープンリール式のテープレコーダーで、4トラックから8トラックのマシンを使用して行なわれ始め、The Beatlesなどの積極的な利用でポップス録音の主流となってゆきました。

そして全ての収録が完了して楽曲の全貌が見えたところで、再度ひとつひとつの楽器やヴォーカルの音色、音量を見直し、全体的な世界観を作り上げながら最終型のステレオ・マスターにしてゆくのです。この作業のことを、マルチ(多重)トラックからステレオ2トラックへ落とすという意味で、トラック・ダウンと呼んでいます(モノ=1トラックへ落とす場合も同様。またミックス・ダウンという語も同じ意味です)。

トラック・ダウンの作業を終えますと次ぎに行なうのはマスタリングという作業になります。アルバム制作の場合は10曲前後のマスター(テープなど、最近では非圧縮型のPCMオーディオデータ)から、曲の順番や、曲と曲の間の長さを決めます。また1枚のアルバムのなかでも異なったプロデューサーを起用し、トラック・ダウンをしたエンジニアが異なれば音色や平均的音量の傾向が異なってきますから、これらを1枚のアルバムとしての統一感を持たせるために音色と全体の音量の最終調整を行ない、レコードでもCDでも複製プレスを行なう工場へ納品できる形態に仕上げること、これがマスタリング作業になります。


(注1):クラシック音楽は基本的に全ての楽器、歌がある場合は歌も、同時に録音してしまいます。故にいきなりステレオ2トラックをつくることができます。
ジャズも全ての楽器、歌を同時に録音していますが、こちらはかつては2トラックに、最近ではマルチトラック録音が主流です。

posted by mniijima : Feb 4, 2010

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comments

うわ! やっぱり面白いですね〜〜!
知らない事ばかり。最初の頃、マイクも無く 集音器から直接カットしていたなんてね。ビックリです。

そして、M.Niijimaさんのお仕事の大切さが分かりました。失礼ながら ベスト盤などは 簡単だと思っていましたが、バラバラの状態の音を それなりに統一感のある一枚にまとまった状態に仕上げ、しかも 元の音から余り変わらない様にするなんて メチャクチャ大変ですよね。

クラシックの事も 興味深い事です。

面白いですわ〜!

by 光代 : February 5, 2010 5:22 PM

光代さん、
このあたりのことは興味がある方には周知のことと思いますが、ご存じない方もいらっしゃるかもと書いておいたのがよかったようです。

ベスト盤! ちょっとこのシリーズの前振りになりますが、昨今の商品は、実はご想像されている「簡単」なほうになってきています。1アーティストを扱うベスト盤、いくつかのアーティストを組み合わせるコンピレーション盤(と呼ばれる)商品は、制作(は既に済んでいる)費はかからず、製造費のみ。面白い企画ができ、ユーザーに受け入れられればそれなりの収入になることから、不振が深刻になってきた音楽業界の儲け口になっていますが、必要なところに必要なコストをかけられない事情が質を落とすことになってきています。

by M.Niijima : February 5, 2010 6:53 PM

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