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August 11, 2009

  その火は人々に守られ、豪雨に晒されても消えなかった

三鷹市美術ギャラリーの在るビルから駅へと渡るテラスへ出てみますと、雲はより厚くなって、空をより暗く覆っておりました。今にも雨が落ちてきそうな午後、わたくしはJR中央線で駅を3つほど新宿方向へ戻ったのでした。

荻窪駅北口を出まして右へ向きますとバラックのような建物からよい匂いの煙が立ち上がっております。昭和27年に創業と云われております「鳥もと」のことでございます。かつて駅の反対側、南荻窪に住んでおりましたころ、昼間から景気のよいガヤガヤとした雰囲気に誘われ何度か一杯やりに入ったことがございました。

駅の出入口のすぐ脇、線路沿いの一等地です。なんでこんなところに、と今では思われるでしょう。その「鳥もと」が駅前再開発の名の下に店を畳むとの噂を聞きましたので、東京に残った最後のいくつかもしれません、戦後、あるいは昭和の残滓を味わっておこうと、この日伺ったのでした。

ビールと一緒に注文しましたレバーとハツが運ばれましたころ、強い雨がバラックを叩きつけ始めました。店員はさっさと店前の半透明のビニールをくるくると下ろし雨除けをつくります(冬は風除けになる)。おもてに最も近い仮設カウンターで飲んでいらっしゃった浴衣姿で華のある姐さん二人は店員の勧めで二階の座敷席(! わたしは上がったことなし)へ案内されてゆきました。
外では時刻通り発着を繰り返す路線バス、傘を差し小走りに駈けてゆく人々、頭から肩へとビショビショに濡らしながらこの店へ飛び込んでくる人、わたくしは奥のカウンター席からこうした光景を眺めつつ、此処からの人やモノの動きはもう見ることはできなくなるのだなぁと感傷に耽りはじめ、2本目のビールを躊躇なく注文したのでした。

さて、店の方に窺いましたところ、此処での営業は8月29日までとのこと。9月からは駅前をさらに東にゆき、現在2号店を出している向かいに新店舗を開店させるのだそうです。肉を焼く「鳥もと」の火はまだまだ消えないようでなによりでございますが、荻窪駅前に流れました時代の記憶は、此処を訪れた者たちの心の内だけに静かに灯ってゆくことになりそうです。

posted by mniijima : Aug 11, 2009

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