« それを開くと、あらたな世界が広がって、、、(5)/ 『時差ボケ東京』(その2) | main | 精霊棚に手を合わして »

July 5, 2008

  浄化を表す響き

多忙を言い訳に、このブログの更新を一月以上もサボっていました。
文章を書くということに、まったく集中力を維持できなかったのです。そのような時期に、わたしくしを癒し続けてくれたのは、R・シュトラウスのオペラでした。

リヒャルト・シュトラウス

この19世紀後半から、20世紀前半に架けて活躍した作曲家、一般的にはキューブリックが映画化した「2001年宇宙の旅」で使用された「ツァラトストラはかく語りき」の導入部の音楽がもっとも有名でしょう。それでもこの曲からは、彼の音楽の魅力のほんの一部しか表れていないのです。
彼は、この曲のような交響詩というジャンルをキャリアの前半に書きまくりましたが、後年は、ひたすらオペラの作曲に精を出すことになります。
過剰な言葉と、こってりと美しい旋律、豊穣なオーケストラ。20世紀中盤になっても、19世紀を引き摺ったようなスタイルを貫き通した彼の曲は、保守的かもしれませんが、抗えない美しさに満ちているのです。
一幕あたり、およそ60分前後の長さは、通勤時のBGに適しておりまして、毎日の電車のなかで、リーザ・デラ・カーザ、ヒルデ・ギューデン、グンドラ・ヤノヴィッツ、ルチア・ポップやディートリヒ・フィッシャー=ディースカウの歌声を聴きながら「薔薇の騎士」「アラベラ」「ダフネ」「カプリッチョ」などを取替えひっかえ聴き続けておりました。

7月にはいって、ようやっと落ち着いてきた感がありましたが、本日も通勤。
ところで今朝選んだ楽曲は、一気に時代を遡り、18世紀へ。モーツァルトの美しい宗教曲、「ハ短調の大ミサ曲」でした。悲壮なキリエで始まる、このミサ曲を聴くと、心洗われるような気持ちになるのです。
そのような気分を味わいたくなったのは、ひとえに前の晩の体験が因を為しておりました。


普段番組表も見ないわたくしですが、iGaさんのMADCONNECTIONを拝読していましたら、これは見なければ、という番組が紹介されておりました。

NHK教育テレビ「芸術劇場」にて、スティーヴ・ライヒの特集、すなわち情報系コーナーと、来日コンサート・ライブ、そしてスタジオ収録のライブが用意されていたのです。
10年と少し前、1996年、わたくしはライヒ氏の実演を観に、常磐自動車道を経て、水戸まで、かの地の芸術館コンサートホールまで出かけていったのでした。そのときは「クラッピング・ミュージック」「ドラミング」「六重奏曲」「ピアノ・フェイズ」、そして古典四重奏団による「ディファレント・トレインズ」を楽しんだのですが、そのとき、どの曲においても、わたくしは、音が発せられた後に来るディケイまたはリリース、すなわち減衰してゆく音が、いかに次の音(のアタック)によってかき消されるのか、また和音の推移によっていかなる共鳴のうねりが生じるのかといったことばかり聴いていたように憶えております。そしてそれがミニマル・ミュージックと呼ばれるジャンルの音楽の楽しみ方の唯一の方法(もちろんそれが唯一の鑑賞法でないことは明白ですが、当時のわたくしは理解不足でした)であるとも思っておりました。

ところで、昨日の番組内、本年5月に来日した彼のコンサートライブ、では、日本初演となった最新作「ダニエル・ヴァリエーションズ」が披露されました。
弦楽四重奏に、鍵盤パーカッション類、3台のピアノに声楽を伴ったこの新曲。痛々しい響きが、最終章で浄化されてゆくように立ち昇っていったことに瑞々しい感動を覚えました。この曲、テロリストによって殺害されたアメリカ人記者・ダニエル・パールの言葉と、旧約聖書のダニエルの書によるテキストを創造の根幹としているのですが、このような響きがライヒの音楽にもあるのだと、あらためて、氏の創造性の豊かさを感じるとともに、ミニマル・ミュージックの真価と進化を認めることができた貴重な時間でした。

今朝、モーツァルトのミサ曲を選んだのは、その「浄化」というキーワードを引き摺っていたため。まったく異なる時代の、異なるアプローチの音楽でもってその気分を再び感じ入ったのですが、音楽というものは、百家百首とでもいうように、幅が広く、奥が深いものであると、あらためて思ったのでした。
そう、そういえば、リヒャルト・シュトラウスのオペラ「ダフネ」のフィナーレも、最後は月桂樹だけが歌うのです、という作曲者の言葉どおり、ダフネは、欲望の虜となったアポロの悔恨の念を受け入れ、自らの気持ちを純化し、そのダフネの心の浄化を象徴するがごとく月桂樹に変容を遂げてゆくのでした。

・わたくしの大好きなブログ、mbさんによるmemorandaにもライヒ氏の番組が記事となっておりました。

・「ダニエル・ヴァリエーションズ」に感動を覚えたのは、わたくしだけではなく、af_blogのfuRuさんも、なんて素敵なことでしょうか、涙溢れるほど心を動かされたようでございます。


※7月6日追記:上記本文にて『弦楽四重奏に、鍵盤パーカッション類、3台のピアノに声楽を伴ったこの新曲』と、ダニエル・ヴァリエーションズの楽器編成を記したのですが、iGaさんのエントリーに追加で挿入されたクリップ画像を拝見するに、ピアノは4台でありました。あと木管2本ね(これは憶えていたのですけどね...)。

posted by mniijima : Jul 5, 2008

trackback

trackback URL for this entry:
http://www.mniijima.com/across/cgi/mt/mt-tb.cgi/291

comments

mniijimaさん、こんばんわ。
リンク先の『スティーヴ・ライヒの音楽』に楽器レイアウトがあります。
http://www.operacity.jp/concert/compo/2008/concert2.php

今朝、改めてビデオで聴きました。
窓を開けていたので、鶯や雀などの野鳥も途中から演奏に参加、それがとても良かったです。

野鳥といえばオリビエ・メシアンが捕虜収容所時代に「ヨハネの黙示録」を主題に書いた「世の終わりのための四重奏曲」も良いですね。僕は1978年6月2日のタシの演奏を聴いているのですが、会場(西武劇場)にはNHKの芸術劇場に出ていた建築家の磯崎新氏もいました。これは一生に一度立ち合えるかどうか分からない演奏会だったと思いました。

by iGa : July 6, 2008 10:12 PM

iGaさん、おはようございます。
URLのご教示ありがとうございました。リンク先を見ていて、「ドラミング」の配置から、かつて水戸で聴いたときのことを思い出しました。そのとき(埼玉でも公演があったのでしたが)わざわざ水戸へ行ったのは、小澤征爾氏のもと、めきめきと実力を発揮していた水戸室内管を放送で見聞きし(モーツァルトとかでした)、その上手さに舌をまき、箱(ハード)をつくるだけでなく、そこで活躍する人間も育てる、ソフト面も合わさった盛り上げ方の成功例として、水戸芸術館という場所に俄然興味を覚えたからなのです。
そして其処は磯崎新氏の設計によるものでしたね。
ライヒ公演の翌日、無料で行なわれるパイプ・オルガンのコンサートも楽しんできたのですが、昼の建物、その幾何学的な回廊のまんなか、陽がよく射し込む芝生の広場で、近所の子供達が駆け回って遊んでいたことが印象的でした。

メシアンの「世の終わりのための~」。先日FM放送でメシアンとほぼ同時期の生まれである吉田秀和氏がこの曲の解説をされていました。オリッヴィーエ・メッシイアン(のような)と素敵なフレンチ発音で紹介されておりましたが、この曲の鳥の歌、クラリネットのソロ曲の美しさも格別ですね。
そして窓をあけて、鳥たちの声とともに音楽を聴くこと。わたくしも大好きでありますが、いまの家は近くの街道をゆく車の音が大きく、なかなか楽しめないのです(涙)

by M.Niijima : July 7, 2008 10:45 AM

こんばんは。
ライヒの何たるかを論じたわけでもなく、単に録り逃した愚痴を書き並べただけでしたのに、ご紹介いただいてありがとうございました。
今回、改めてライヒのCDをAmazonで探してみたのですが、国内版の多くが在庫切れ、もしくは、その希少さゆえのプレミアなのでしょうか、値段の釣り上がった中古品が多いようでした。その一方で、iTunes storeでは、ほとんどが手に入れられるような状況.....。「音楽の買い方」が如実に変わってきたことを痛感します。
とは言え、私は未だに「モノ」としてのCD至上主義.....でも、再生はiTunes.....。当面、この矛盾には、知らん顔をすることに決めています(笑)。

(気になっておりましたが、久しぶりの更新に、ホッといたしました)

by mb : July 7, 2008 10:10 PM

mbさん、こんなブログを気にかけてくださって、痛み入ります。
理由は本文に記しましたように、体たらくにも程があると云われれば返す言葉もない、単なるサボりをきめこんでいたのでした。
ライヒのCD。わたしもモノに拘る古い人間です。HMVの通販サイトでは昨日まで在庫あり(ダニエル~や、18人の~)だったのですが、本日あけてみますと、取り寄せになっておりました。やはり放送の反響が大きかったのでしょうね。
それに比してi-tunesは、在庫という概念が(ほぼ)ありませんから、仰るとおり、「音楽の買い方」の変化が認められますよね。

by M.Niijima : July 8, 2008 12:02 AM

ダニエルズ・ヴァリエーション
素敵でした。
たんなるミニマルミュージックから1枚も2枚も殻を破った世界でしたね。
物語の骨格をそなえた作品。
ミニマルミュージックが物語性からの脱却を超えた瞬間といっても良いのかもしれません。
末尾になりますが、拙記事のご紹介、ありがとうございます。

by fuRu : July 17, 2008 11:40 AM

fuRuさん、リンクだけ貼っておいて、貴ブログへご挨拶もせずに失礼しておりました。
af_blogにて音楽の記事を拝読するたびに、fuRuさんがたいへん深く音楽を聴いていらっしゃることにいつも驚いております。
ダニエル~は、まさに進化したミニマル・ミュージックの姿であったこと、思いを同じくしております。
コメントをお寄せいただき、ありがとうございました。

by M.Niijima : July 17, 2008 12:54 PM

post a comment




remember personal info?


(you can use some html tags.)