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May 17, 2008

  妻の懐妊を望むあまりに大公はそれを贈った

ティツィアーノ・ヴェチェッリオを見にゆきました。後にウルビーノ公となるグイドバルド・デラ・ロヴェーレが妻のために依頼したプライベートな作品が、およそ500年の後、ユーラシア大陸の東の果てのその先の島国で、巨大なポスターとなってあちらこちらに貼り出される破廉恥に、大公も画家も草葉の陰で仰天しているだろうという思いは、まったくMADCONNECTIONのiGaさんに同感なのです。
そのティツィアーノによる「ウルビーノのヴィーナス (Venere d'Urbino 1538年)」、こういったものは実際の目に焼き付けなければ、駅構内で乳房をさらした巨大ポスターをもってしてもその魅力はまったく伝わってこないと、展示終了間近(5月18日まで)にようやっと上野の山に登ったのでした。

展示はヴィーナスが美術におきまして辿った系譜をテーマに構成されておりました。紀元前のローマ時代に制作された美術、工芸品から始まり、そしてヴィーナスというテーマが中世において忘失された時期を挟み、再びルネサンスとともに復興した経緯、横たわる裸婦としての美術的図象におけるヴィーナスの存在。「ウルビーノのヴィーナス」はここに属しますが、これが後世に与えた影響の大きさを確認しながら、「パリスの審判」の諸作、ルネサンス後期のマニエリスムからバロックに至るヴィーナスのその後を示して終る、あちこちヴィーナスだらけでお腹がいっぱいになる展示でございました。

本展主役であります「ウルビーノのヴィーナス」、ものすごく鮮やかでございました。いっきに目を惹く力がそこから発せられておりまして、この覚醒した(兄弟子ジョルジョーネによる『眠れるヴィーナス』(今回展示には出展されていません)は未完であり、ティツィアーノが補筆して完成に至る。ウルビーノ~はその25年後の作品ですが、あえて同様の構図で挑んだ)ヴィーナスが投げかける微々とした笑みから、なんとも云えません誘惑的な魅力と、高貴な力を感じました。それにしても、あの頬の色彩と、肩に落ちた髪の量感と質感の見事さ、それらを讃える言葉を知らぬことに腹立たしさを隠せません。

展示では、他に、制作年不明、ローマ・バルベリーニ宮国立古典絵画館からやってきました、ルカ・カンビアーゾという人の(ヴィーナスが止めるのも振り切り、狩へゆき、猪に致命的傷を負わされ、そして死んだ)「アドニスの死」をテーマにした作品、そしてこれまた制作年不明のラファエッロ・ヴァンニ(「アテナイの学堂」などを描いたラファエッロ・サンティではない)によります「キューピッドを鎮める『賢明』」という作品にもさかんに魅了されてまいりました。
とくに後者は、絹に描かれているのですが、とある絵画を、特別なときにだけ見せるようにというカバーとしての役割のための作品であり、そのカバーそのものが、「賢明」の象徴である鏡と蛇を下部に配置しながら、肖像画に掛けられたカバーをめくり見ようとするキューピッドを制するヴィーナス(の賢明)を描いているという2重性に興味を持ったのでした。

ところで「ウルビーノのヴィーナス」には、ヴィーナスの他に侍女と少女の姿が描かれていますが、iGaさんのエントリーを拝読して以来、どうしても太夫、遣手、禿という傾城処の組み合わせにしか見えなくなってしまったのでした。

posted by mniijima : May 17, 2008

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comments

どうも、余計な先入観を与えたようで...。m(_ _)m

私思うに、ラファエッロ、ティツィアーノ、ムリーリョ、この三人程、女性を愛らしく描く画家はいませんね。

私が今回の展覧会で気になった絵はカラッチの「ヴィーナスとキューピッド」でした。ちょっと中性的なヴィーナスが倒錯的に見えました。(^_^;)

by iGa : May 18, 2008 10:08 PM

iGaさん、お呼び出しをしてしまうようなエントリーに、早速のコメントを恐縮です。
先入観どころか、おかげさまで、楽しい鑑賞ができました。
ヴィーナスの存在が、ある面、娼婦性を語っているという解釈もあるようですし。

カラッチの作品はわたしも目に止まりましたです。美と愛の存在に少年性を醸し出させるのは珍しいなと思いました。

わたし自身は、19世紀末の英国、ラファエル前派とその周辺が描いたような女性像が好きです。特に古典から題材をとっているウォーターハウスや、ブーグロー。美術館出口近く、銅版画を売っているコーナーで、ブーグローを模写したもの(それも19世紀、リアルタイムに刷られたもの)が売られていたのはびっくりしました。

藝大のバウハウスは、また後日観にゆこうと思っています。

by M.Niijima : May 19, 2008 4:24 AM

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