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March 11, 2008
20数年前、わたくしが「ヴィオロン」で、ライブの収録をしておりましたころ、マスターのT氏に、その店のことを教えていただきました。JR中央線で阿佐ヶ谷から駅をふたつほど新宿に上り、中野駅北口、サンモールというアーケード商店街の途中を左に折れて、路地にはいりますと、黄色い地に、黒文字で「クラシック」と書かれた看板がございました。そして赤い文字で「音楽室と談話室」とも書かれておりました。
数年前のある日、おそらくはサンモール右側をはいったところにございますフジヤカメラさんへ、なにか写真の道具を買いに出かけたときのことであったと思いますが、久しぶりに「クラシック」へ行ってみますと、入口に閉店した旨が記されており、茫然と、しばらくはその前で、その手書きのメッセージを何度も読み返したことがございました。
前世紀に咲いた、此処の看板のように、ささやかな菜の花のような喫茶店がひとつ、此処を訪れたことがある者の心の中にだけ、強い色を残して、消えてしまったのです。
扉を開けると、いらっしゃい、と、皺枯れた声をかけられました。それが「ヴィオロン」のT氏より伺っておりました、此処「クラシック」の(先代の)オーナー、ミマサカ氏でした。メニューは、珈琲、紅茶、ジュースと3種類しかございませんでした。注文を告げますと、プラスティック製の、よく番号札に使われます、色つきの札を渡され、それが食券ということでした。
いくつも掛けられた時が止まった柱時計、電気ランプ、額に飾られた小さな号数の絵画(オーナーは画家でもあったのです)。それらに囲まれ、わたくしは2階の席でのんびりすることを好んでおりました。ギイイ、ギイイと泣き出す階段を昇り、いつもの席が空いていないときは、座り心地に当たりはずれのあるシートを薄暗がりの中、博打のように、見た目だけでは判断しづらい良席を求めて腰を下ろしたものでした。
此処でかかるレコードは、たいていひどいスクラッチ・ノイズ、溝にゴミが付着したときに発するボツッと大きなノイズを加えながら、ターンテーブルを回り、針がトレースしておりました。
アナログ・レコードを半永久的に良い状態を保たせることはほぼ不可能でしょう。好きなレコードほど、よく聴きこまれ、それは同時にいち早い劣化を招くことになります。それでも、これで良いのです、このノイズたちは、このレコードの勲章なのですよと、教えてくれたのは、この「クラシック」でかかるレコードたちでした。
先代亡き後は、ご息女が引き継いでいらっしゃったようですが、どんな理由であったのかは存じ上げませんが、いずれにせよ、時代の波に抗えなくなったのでしょう。1930年の創業以来、この中野に咲いた黄色い花は、2005年の1月、静かに、姿を消したのでした。
posted by mniijima : Mar 11, 2008
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comments
う〜〜ん、とても残念です。
でも,こうして 記録する人がいて 私たちが読む事ができて 色々な方の心に残ったら また 新しい命が生き続ける気がしますね。
by 光代 : March 11, 2008 9:33 PM
光代さん、
はい、とても残念なことでした。
飲み屋や、喫茶店などは、そこの内装がどうの、用意されたメニューがこうの、以上に、営む人や、集まる客によって、その存在は育てられるのだなぁと、そして此処「クラシック」は、長い歴史の中で育まれた存在感が、圧倒的な雰囲気となって感じられた場所でした。
実は中央線の別の駅にも、歴史を感じさせる喫茶店があるのですが、そちらは今回のテーマから、少しはずれてしまいますので、割愛をいたしました。そちらも機会があれば、あらためて、綴ってみたいと考えております。
いつもコメントをありがとうございます。
by M.Niijima : March 12, 2008 2:29 AM
こんばんわ。中野のあの名曲喫茶もピリオドを打ったのですか。
運ばれて来たコーヒーを2階席で、脚の長さが揃わなくてがたがた揺れるテーブル
にコーヒーがこぼれないように気を使った記憶が思い出されますよ。
by いしい きみたか : March 12, 2008 4:43 AM
いしいさん、
やはり「クラシック」をご存知でしたか。
仰るとおり、ガタガタするようなテーブルもございましたね。
いしいさんが、こちらに戻られたら、さぞびっくりされることが多いのではないかなぁ、と思います。喫茶店などは、ほんとうにちっぽけな変化のひとつにすぎない。ところが、そこに生きて、関わった人間にとっては、大きな意味がある。そんなことを最近よく考えています。
コメントを、ありがとうございました。
by M.Niijima : March 12, 2008 12:44 PM