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February 29, 2008
前々回のエントリーにて、樋口一葉へのオマージュが綴られました、芝木好子さんの短編「本郷菊坂」(『海の匂い』集英社文庫に所収、絶版)をご紹介いたしました。
ところで、今年1月に発表されました第138回の芥川賞、その受賞作、川上未映子さんの「乳と卵」も、樋口一葉へのオマージュが綴られているとうかがいましたので、文芸春秋3月号(2/10売り)での全文掲載を読んでみました。
本文の前に、川上さんへのインタビューが記事となっておりまして、そこで、樋口一葉は20歳のころ初めて読んで一石を投じられた感じがあった、あんな文章を見たことがなかった、また「奇跡の14ヶ月」と云われるドラマティックな人生にもぐっときた、のだと話しております。
ところで、川上さんはミュージシャンでもあるのですが、わたくしは存知あげませんで、今回の受賞で初めて彼女を知ったのでした。
今(CDが)売れているそうですね、という質問に、それ恥ずかしいのです、注文殺到、5倍の売り上げと云われても、いままで千枚しか売れていなかったから、それがたかが5千枚になったところで、、、、と正直に気持ちを表す彼女には好感がもてます。
豊胸手術を受けようと娘を伴い大阪から上京する巻子。その娘はまさに思春期を向かえようとしており、母や近親者に言葉を閉ざしております。その母娘を東京で迎え、自分のアパートに泊めさせる巻子の妹である「わたし」が、傍観者として、また近親者としての視線で語ってゆくこの小説、川上さんが献じました一葉へのオマージュ。
まず、言葉を閉ざしている巻子の娘の名が、緑子。ここから「たけくらべ」の美登利を想起するのは簡単です。ともに女性として重要な、そして微妙な時期で、美登利の信如に対するつれない態度と、緑子の母へ言葉を閉ざした態度が重なります。
そして東京での舞台となる「わたし」のアパートの場所、母娘を迎えに東京駅へ行ったあと、自宅まで連れてゆく過程である程度は想像できるのですが、物語のクライマックス近く「わたし」がはっきりとその地名を述べます。まさに「たけくらべ」の舞台となりました処と、ほぼ同一、または目と鼻の先なのでございます。ただし「わたし」が其処に住んでいる絶対的な必要性を物語から見出せず、それは下北沢のアパートでも一向に構わないと思えたことが、かなり残念でございます。
ところで、川上未映子さんの文体の特徴としまして、読点だけで、どんどこつながれてゆく、と云いましょうか、発生してくる言葉、長い長い一文のことが挙げられます。が、こういうのは以前、一時期、村上龍氏(は芥川賞選考委員の一人であります)が、「」の中の会話文でやっていたので、さほど新鮮とは感じませんでした。ただし、村上氏の場合、本来句点を打たなければならないところも、読点を打っている、半ば強引なものでしたけれども。
またタイトルともなっている「乳」も「卵」も生命における根源的意味を持っているわけですが、文学のモチーフとして決して目新しいわけではございません。
そして巻子が豊胸手術を受けようとする理由も、ああそうなのか、それは切実だと、きっとそう思う女性も必ずやいる筈だと、理解できるのですが、それはわたくしの頭で理解しているだけであり、同様に緑子の心理も頭では、そういうこともあろう、と理解するのですが、身体全体で共感できることではないのです。
ものをつくるという行為は、ある種、普遍的なものへ近づきたいと願い、起こす行動なのだと思うのですが、理解はできるが、性差によって共感することが難儀な作品を、どう受け取ってよいのか、わたくしのなかではいまだ答えを見出せておりません。
ところが、斯様な面を持っていながら、彼女の文章をもっともっと読んでみたいと思ったことも事実でございまして、読んだ者をアディクトさせる不思議な力がその文章そのものに内包されているのか、またはわたくしが男だから、巻子のことも緑子のことも頭で理解できるのに、身体で共感できない、その空洞が、飢餓感となって襲ってくるのか、よく判りませんが、このエントリーをしばらく前からだらだらと下書きしているうちに「乳と卵」が単行本となりまして、書店に平積みされるようになり、それには受賞後第1作、短編「あなたたちの恋愛は瀕死」が併録されていますが、こちらではなく、小説デビュー作であります「わたくし率 イン 歯ー、または世界」のほうを読んでみようかしらと思いつつも、併録作品も含め一晩で読み終えてしまいそうな分量のものを千ウン百円で購入するのはどうかしらん、と貧乏臭いことを考え、テーマ的には今読まなくともよさそうですので、いくつかの作品がまとまって文庫になってからでもいいのかなと躊躇しているのでした。
posted by mniijima : Feb 29, 2008
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