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October 27, 2007

  ブデンマイヤーとは何者なのか

エントリーにだいぶ間が空いてしまいました。最近少し忙しく写真を焼いていませんので、今日は肩の凝らない映画の話しでも。
クシシュトフ・キェシロフスキ監督による最後の完成作品となりました「トリコロール 3部作」。その第1作、ジュリエット・ビノシュ主演の「青の愛(国内1994年公開)」。事故死した夫が書きかけていた欧州統合のための協奏曲を妻ジュリー(ビノシュ)が受け継ぐのですが、それを手伝い、譜に起こす男とのやりとりのなかで「(ジュリー)そこは対位法で」、「(男)おっ、ブデンマイヤー風だな」というような台詞がありました。

ところで、キェシロフスキ監督はこの「トリコロール 3部作」の前に「ふたりのベロニカ」という作品を公開しておりました。「トリコロール」の最終作「赤の愛」で主演しているイレーヌ・ジャコブが好演しておりました。
この物語、顔も姿もそっくりなベロニカという女性が、ポーランドとフランスにおり、そのふたりのベロニカの数奇な運命を、歴史、時間、そういったものを包み込む感覚と、やるせない喪失感のなかで描いています。もちろんイレーヌ・ジャコブの一人二役で演じられます。
ポーランドのベロニカはソプラノ歌手で、リサイタルの舞台上で曲を歌いきって亡くなってしまうのですが、そのベロニカが歌っていたのは、もちろんこの映画のためにズビグニェフ・プレイスネルによって作られた楽曲なのですが、映画の中での設定は18世紀から19世紀にかけて活躍した「オランダ人、ブデンマイヤー」という作曲家(もちろん架空の人物です)による音楽とされているのです。
そのブデンマイヤーが「青の愛」でも過去の大作曲家として登場してきましたので、当時上映を見ながら、おー、使いまわすねぇ、とニタニタ笑ったことを思い出します。

さて、そのブデンマイヤー作(実際はプレイスネル氏の作品)のソプラノ・ソロを伴った悲壮な楽曲「Concerto en mi mineur (Concerto in e-minor)」ですが、わたくしが持っているフランス盤のサウンドトラックCDには2タイプ収録されております。
ひとつはVersion de 1798、すなわち1798年の版として、もうひとつはVersion de 1802。前者のオーボエによる主題提示に替えて、後者には合唱とソロによる序奏が付加されています。

ところで実際の18世紀から19世紀をまたぐ時代というのは、ベートーヴェンが初期作品を書き、そして第3交響曲の作曲(1804)から傑作の森と呼ばれる中期作品群を書き始めるころにあたっています。またはウェーバーや、ケルビーニの時代。
まさにクラシック音楽の絶頂期であったわけですが、架空のブデンマイヤーの楽曲には、音楽的時代考証の要素はあまり頓着されておらず、オーケストラ編曲などは、その時代の大家と並べるには申し訳ないほど稚拙であります。

と云いつつ、このブデンマイヤーの(プレイスネル氏の)Concerto en mi mineur、協奏曲ホ短調の旋律が持つ悲壮感にはたまらない魅力があるのです。そしてその主題のモチーフは映画サントラを統一するモチーフでもあるのですが、ソプラノで歌われますと、胸を掻き毟られるようでございます。

因みにこの歌は、ポーランドのソプラノ歌手、エルジビエタ・トワルニッカさんによって収録されております(当然映画ではイレーヌ・ジャコブがアテブリしています)。トワルニッカさんはその後、押井守監督の実写+CG映画「アヴァロン」でも、テーマとなる「Voyage to AVALON」で素晴らしい声を披露するだけでなく、「Voyage~」を歌うコンサート・シーンが映画の中でも扱われておりました。なお、こちらは川井憲次氏の作編曲だけありまして、さすがオケの扱いも素晴らしいのであります。

さて、「ブデンマイヤー」の例だけでなく、キェシロフスキ作品には事物モチーフの流用が頻繁に見ることができます。例えば町をのろのろと歩く老人の姿などです。物語の進行にはなんら影響のないシーンやカットにおいても、人間の、人生の、個別性と関連性を想起させる象徴的要素を随所に散りばめた巧みな世界。
このなんともまとまりの悪い文章を書きながら、「ふたりのベロニカ」のCDを聴いておりましたら、キェシロフスキ監督作品を再び観たくなってまいりましたので、今週末は台風で荒れ模様のようですから、DVDでも借りてこようかと思っているところでございます。


「ふたりのベロニカ」も、「トリコロール3部作」も全て渋谷のル・シネマで観たと記憶しておりますが、「ふたりの~」が92年公開でしたから、もう既に15年も経っているのですね。早いものです。

posted by mniijima : Oct 27, 2007

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