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September 11, 2007

  平面から立体を起こす

さて、わたくしの記憶の中に眠っておりました金毘羅船々音頭を蘇らせた「金刀比羅宮書院の美」展へは、忙しさもありまして上野の山へなかなか足を向けることができずにおりましたが、展示最終日の9月9日にようやっと行って参りました。
朝一番で入館するつもりでしたが、芸大に到着したのが10時半。開館から30分過ぎておりました。すると長蛇の列が美術館周囲を巡っており、50分待ちのカードが掲げられております。台風が明けてよく晴れた週末。残暑の陽射しが容赦なく照り付けてきます。折しも「東京藝術大学芸術祭2007」開催中で、模擬店の学生さんがこれみよがしに、汗を流し、列に並ぶわたくしたちを良いカモと、冷たいドリンクなどを売りに来ます。
可愛らしいお嬢さんに「冷たいラムネはいかがですかぁ」と来られれば、「あ、ひとつくださいっ」となるのが人情(か?)。「でもこの瓶持って中に入れないでしょ? 少し経ったら瓶を引取りに来てくれる?」と我侭な注文にも応えてくださり、こちらの準備は万端。いざ美術館内へ。

この展示でのメイン・アーティストは江戸期の画家、円山応挙、伊藤若冲、岸岱の3名なのですが、この人たち、ホントとんでもないことをやらかしておりました。
この展示では、境内の表書院、奥書院の2棟にございます、各間の襖絵(本物とレプリカの混在)、小壁、障子などを実際のようにレイアウトし、書院空間を再現しております。

まずは円山応挙を見てみます。
「虎の間」。毛皮の敷物を見て描いたと云われる虎、いやいや、それだけでこの活き活きとした肉食獣を描ききれるものではないでしょう。恐らくは猫の姿勢などをよく観察されたのだと思います。
さて、この間では、元来、凸を成すモチーフを、あえて凹面に置く大胆さを見せています。
具体的に申しあげますと、「虎」の合間に「岩」というモチーフを描いているのですが、「岩」の表面は凸凹しておりますが、一個の塊としては、凸の質を与えます。そのモチーフを部屋のコーナーに配置しているのです。コーナー部ですから90度内側に折れた場所です。すなわち凹を形づくっているスペースへ、あえて凸の「岩」を配置しているのです。この発想の転換は応挙の空間認識の見事さをおおいに見せてくれておりました。

次に、岸岱によります「菖蒲の間」を見てみましょう。鴨居・長押上の小壁に天晴れな蝶の群れが舞っており、その絢爛さはお見事としか言いようもないのですが、それに留まらずその下にくる障子の下部、腰板には地に生えた植物が描かれる。そして向かいの襖には菖蒲。この四面という方向性に、さらに上下感覚を添えた立体の構築の見事さに圧倒されます。

また「柳の間」に見られるのは省略。モチーフの部分だけを描くことで空間の大きさを見せてくれます。壁面に描かれた柳の木、そこでは長く張り出した枝を描きながら、その先90度超えた隣の小壁では(そこまで確実に延びているであろう柳の)枝を廃し、垂れる葉だけを描いたことにより、空想上の枝は部屋を、天井を突き抜け、上空に存在することになります。この空間処理。大きいですねぇ。

そして伊藤若冲の「花丸図」。蓮、紫陽花、牡丹、菊、水仙などなどが反復され描かれたど派手な襖。なんというモダンなグラフィック感覚でしょうか。この手法、最近のスウェーデン(だったはず)人の作品で、北欧の花々が同様に描かれたイラストレーションを見たことがあるのですが、それを若冲は18世紀にやっていたのです。
これは完成直後の地の金箔がまだ輝かしいときに見た人たちは、何を感じたのでしょうね。このような反復に絵画ではないと判断する人もいたのではないでしょうか。それほどまでに前衛であると思うのです。

さて、メインの3名の作だけでなく明治の人、邨田丹陵の富士山図。ふらり再現された部屋に入ってまず目に入りましたのが、障子腰板のさらに下部に小さく並べて描かれた松の林。それを見た上で振る返り驚嘆を招く対面の壁に在る富士の大きさ。冬の富士、霞む光景はそれだけで美しいのですが、対比によって明確にされる大きさと、中間の裾野(は部屋の空間であります)を省略することで広大さのデフォルメになっている巧みな空間演出。これは先の巨匠たちにも劣らぬ世界が在ると、しゃがんで、部屋に座っている状態をひとりロールプレイして楽しかったです。

ところで、この展示を見に来る前に、友人と山手線内で当展の広告を見たと前エントリーにて記しましたが、そのとき友人が「この夏は、上野の山に シュラシュシュシュ」という微笑ましい広告コピーから本来の詞章について、船の航行を「シュラシュシュシュ」と表現したユニークさを指摘されておりました。
なるほど斯様な表現は他に例を見ませんね。軽やかに水上を駆けてゆく舟のイメージが沸いてきます。
展示には江戸期にこの界隈で使われていた廻船と弁財船の木造模型が出品されておりました。瀬戸内の海上輸送の主役であったこれらの船、実際の全長は20~30メートルくらいであったそうです。それでもまさにシュシュシュっと航行していたのでしょうね。

展示に戻ります。参考出品として昭和の平林春一による掛け軸にセットされた画、「金毘羅船図」。幾艘もの船がまるで木の葉のように描かれており、その繁栄する船溜まりの光景が単純化された画のなかに垣間見ることができ、これもまた強く印象に残りました。

この展示は巡回展として、このあと2007年10月1日(月)~12月2日(日)を前期、12月29日(土)~2008年1月31日(木)までを後期として、なんと金刀比羅宮内で展示、通常非公開の奥書院に立ち入ることができるようです。
2008年4月26日(土)~6月8日(日)には三重県立美術館で、そして同年10月~12月にかけてはパリにて開催されるそうです。お近くの方はお勧めですので是非ご覧になられてはいかがでしょうか。

posted by mniijima : Sep 11, 2007

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