« 日本橋魚河岸 | main | 人も草木も盛りが花よ(1) »
July 15, 2007
さて、家康から江戸向島と呼ばれた洲を拝領した森孫右衛門ら一行は、そこを出身地にちなみ「佃島」と名付け造成工事に取り掛かりました。そして15年もの歳月を掛けまして正保元年(1644)に完成させることになります。漁民(ただの漁民ではなく、軍事行動にも参加していたので海賊であったという説もございます)が測量、土木、建築という専門工事を為してゆくのは、まったくたいへんな事業だったのでしょう。
ところがその特殊技術は、さらに活かされることになります。
彼らは本願寺教団の信徒であったのだそうですが、元和3年(1617)江戸浅草近くの横山町に建った江戸浅草御坊、本願寺別院は、振袖火事と呼ばれる明暦(1657)の大火によって消失しました。
そこで当時の佃島の名主忠兵衛が奔走しまして、佃島に近い海際への移築を働きかけます。そして再び海を埋め立てて土地を築き、すなわち築地ができ、そこに再建し本願寺別院は築地御坊として延宝8年(1680)に完成となりました。
そのころより、佃島では、踊りながら念仏を唱える踊念仏をルーツとする祖先の例を祀る行事を、七月の盂蘭盆の頃に行っておりました。
そして驚くことに、その踊りは現在に至るまで伝承され、今年も先日7月13日(予定では15日までの3日間でした)に東京では唯一、全国的にも珍しい、念仏踊りによる盆踊りが行われています。
森孫右衛門ら一行が拝領され、自らの手で造成した当時の佃島は現中央区佃1丁目部分にあたる、たいへん狭い人口島でした。その佃1丁目のとても雰囲気の良いメインストリートに素朴な白い提灯が、組んだやぐらの屋根の四方より延ばしたロープに下げられ揺れています。提灯には南無阿弥陀仏の文字が見えます。ここでの盆踊りには隅田川や東京湾で水死した人々の霊を供養する性格も持ち合わせておりまして精霊棚も設けられています。
さて、すぐ隣には大川端リバーシティ21に建つ高層タワーマンション群の灯かりが壁となって見えます。住吉神社をぐるりと周る堀、佃小橋の上から見ますとその水面は穏やかです。とても台風が近づいているとは思えない無風の、それでも湿度が高い夜。
やぐらの上には音頭とりがひとり、シンプルな拍で、太鼓を叩いてゆき、謡います。謡はマイクロフォンを通じて拡声されますが、その他の伴奏はございません。またテープによる東京音頭もドラえもん音頭も、炭坑節もございません。ひとつの音曲のみを延々に繰り返します。それでも文句は少しづつ即興にて変えられているようです。旋律はどちらかと云いますと櫓漕ぎ唄のような労働歌的な雰囲気も感じられますが、念仏踊りですから、おそらくはその起源を御詠歌などに求められるのでしょう。故小泉文夫氏はその著作「日本の音」にて、
『和讃とか、御詠歌といった庶民の信仰に結びついた音楽の形式は、~(中略)~仏教を離れて郷土芸能の中にもどんどんしみ込んでいきます。念仏和讃も、単に唱えるだけではなく、踊りなどにも入り、念仏踊りになります。それが雨乞踊りにかわっていき、そしてさらに盆踊りへ、あるいは念仏踊りから、次第に白拍子の踊りなどに結びついたり、出雲の阿国などの風流踊りになり、それがとうとう後には江戸時代の歌舞伎にまで発展してしまいます。(日本の音 小泉文夫 平凡社ライブラリー刊)』と、念仏踊りのルーツを示唆し、さらにその発展の様まで紹介されております。
音頭とりが一節謡いますと、今度は踊り手がそれをくり返します。踊りもいたってシンプルです。わたくしはもっと陶酔的に踊るのかと想像していたのですが、たいへん単純抽象化された振り付けで、止めるところは止まり、さっと動くところは動く、洗練をも感じました。
その雰囲気の様子は、わたくしも写真に撮っておりますが、なかなかアナログな手法なために即アップロードとはなりませんので、そこでお世話になっておりますKai-Wai散策さんの「佃島盆おどり」のエントリーを是非ご覧くださいませ。
当日現地でお会いできなかったので残念でございますが、さすが、良いシーンをしっかりと捕らえていらっしゃいます。
また、森孫右衛門ら一行のルーツであります現大阪市西淀川区佃に関しましても、「佃島漁民のルーツ」「佃島住吉神社のルーツ」としてエントリーされておりまして、こちらもたいへん参考になります。
東京のど真ん中とも、はずれとも云えます大川河口のうえ、戦中の大空襲によっても大きな被害を出さなかった小さな小さな島には、いにしえの文化がひっそりと伝承されておりました。
posted by mniijima : Jul 15, 2007
trackback
trackback URL for this entry:
http://www.mniijima.com/across/cgi/mt/mt-tb.cgi/175