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July 12, 2007
更新が滞っておりましたので、最近読んだ本の話しでも。
目黒区と渋谷区を跨ぎます上村坂の話題から、本にお詳しい方より、かつての渋谷南平台の写真が載っております「名作写真と歩く、昭和の東京」(川本三郎著 平凡社 2007年刊)を紹介していただきました。
これは昭和7年(1932)から63年(1988)まで、52名の写真家によって東京で撮られた写真67点を紹介したもので、読売ウィークリーに連載されておりました「東京時空散歩」を加筆、再校正したものとのこと。数々の写真だけでなく、1点1点、川本三郎氏の文章を読めるのが楽しい写真本でございました。
掲載写真を撮っております主な写真家は、(敬称は略させていただきます)荒木経惟、上田正治、木村伊兵衛、桑原甲子雄、牛腸茂雄、須田一政、田沼武能、丹野清、東松照明、土門拳、長野重一、細江英公、森山大道などなど、外国人写真家はHCB、ロバート・キャパ、ルネ・ブリ。昭和ですねぇ。まさにその時代を代表する方々のお名前ばかりです。
わたくしがとくに印象を強く残したのは、ルネ・ブリが昭和36年(1961)に撮りました「築地中央卸売市場」。市場特有の低温からでしょうか、場内に立ち込めるもや。そのなかから人々やマグロがシルエットとなって浮き上がってくる素敵な写真。荷揚げされ、せりを待つ間の静寂でしょうか、そんな一瞬を写したものです。
ルネ・ブリ氏はマグナムの写真家で、今年3月に東京写真美術館で開かれました「"TOKYO" マグナムが撮った東京」でも、素晴らしい東京写真を何点も見せてくれていました(そのときのエントリーはこちら)。きっとわたくしには、彼の写真に同調する何かがあるのでしょうね。
他には、深川。東松照明氏による1956年撮影「水上小学校」であります。水上学校は、水上生活者の子供たちのために昭和5年(1930)に月島に開校。そして同18年(1943)、深川の現塩浜1丁目に分校ができたのだそうです。水上学校はその後、物流の変化によりまして昭和40年(1965)に閉校となっております。
東松氏はその学校で勢いよくブランコを漕ぐ子供を捕らえており、背景に運河を見ることができるのですが、既にこの時代、カミソリ堤防による、河川と陸地の分断が顕著になっております。
さて肝心の渋谷・南平台の写真でございますが、これは31年(1956)、田沼武能氏によるものでございました。
ここで川本氏は「バラックだらけの街」「ベニア板でつくった箱のよう」と渋谷を表現しました三島由紀夫の『渋谷・東京の顔』を引用していますが、田沼氏の写真はまさにそのような町の姿を写しております。
ぬかるんだ路地の両側に建つバラック小屋、そして遠くに渋谷駅周辺から昇るアドバルーンがよい対比を為しておりますが、圧巻は路地の先、その消失点を遮るようにして建っております、コンクリート製でしょうか、立派なキリスト教会が見えます。実に不思議な風景でございます。
なおこの教会は、現在南平台に在ります聖ドミニコ・カトリック渋谷教会でも、プロテスタント聖ヶ丘教会でもないようで、川本氏も不明であると書かれております。
明治維新によって江戸は東京となり、大正期に震災、昭和になり戦災を、そして経済成長期、列島改造、バブル、さらにまた平成の昨今の再開発と、留めなく変化してゆく東京の景観。
川本氏は、これら写真が撮られたとき、写真家は最新のモダン東京を撮ってきたはず、と書かれています。それらが4分の3世紀のうちに全ていにしえの景色、失われた景色となっておりますことに、様々な意味で動揺を隠せません。それは単に乱開発に憂う思いだけでではなく、東京という動かせない場所の環境、その上での近代史におきまして伴ったこの変化を目に焼き付けますと、どうしようもなく突き動かされるのです。
ところでそれらモダン東京を撮ってきた全ての写真家は、後世のことを思って、資料価値を求めて撮影したたものは皆無でありましょう。各々の時代の「今」におきまして感じた何かが、写真家を突き動かしたのだと、彼らの写真は語っているように思えます。
わたくしも、マスな目で見ますと汚く乱雑な今の東京を好きにはなれませんが、それでもミクロな視線で捉えてゆきますと、そうそう捨てたものではない都市を、撮らずにはいられないのでございます。
posted by mniijima : Jul 12, 2007
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comments
書店でみかけて、川本さんのエッセイがついてはいますが何となく抵抗があって(こうした本が最近とても多いので)手にとりませんでした。しかし南平台の写真のことを拝見し、昨日、荷風随筆集と共にもとめました。この教会はとても気になります。
by brary : July 15, 2007 9:01 PM
braryさん、
仰るとおり、最近この手の本が多いですよね。
わたくしは、やはり川本さんの文章と、写真家のラインナップが決め手でした。
作風がキライな写真も多々あるのですが、それでもやはり昭和を代表する面々ですから、写真をやるものとして興味がありました(普段写真集はほとんど買わないのですが、、、)
南平台の景色。昭和40年代と現在とは、比べものになりませんが、その時代もまた、40年代とはまったく違う景色でした。それでも現代との比ほどかけ離れてはいないようです。
コメントをありがとうございました。
by M.Niijima : July 16, 2007 3:23 AM