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June 18, 2007

  いま、そこに咲く花(3)

前回のエントリー「霊岸島を歩く」にて、中央区新川で見つけた古書店で、近藤富枝著「今は幻 吉原のものがたり」という文庫を購入したことを記しました。

女史の作品では、わたくしが本郷界隈を撮影しましたころ、「本郷菊富士ホテル(近藤富枝著・中公文庫)」を読んでおりました。
その作品中にて、坂口安吾の恋人と記された矢田津世子(やだ つせこ 1907~1944)という作家の名を知り、その矢田が、

自分はどういう意味にしろ圧迫する人を持ちたくない。そのために萎縮する性質だから

と、進展芳しくない恋を振り切り、小説を書くことを選んだということにたいへん興味を覚えました。

そうして、矢田津世子の「神楽坂(神楽坂・茶粥の記―矢田津世子作品集・講談社文芸文庫に所収)」という芥川賞候補となった作品を、古き時代の神楽坂の様子が窺い知れるかもと、早速読んでみたのです。

坂下の袋町(現存)の妾宅へ通う、坂上の通寺町(現神楽坂6丁目)もしくは横寺町辺りに住む「馬淵の爺さん」。妾のお初は、爺さんに贅沢なものを強請るのが得意。ところで爺さんの本妻はたいそうな働き者。身体を患い床の生活を強いられているものの、腕に覚えのあるお針仕事を辞めることはない。爺さんは妾をもつほど経済的には恵まれているというのに、であります。
そしてその本妻、お内儀さんが床の生活を始めた頃に孤児院から引取られ女中として働くお種は、お内儀さんのしっかりを引き継いでゆく。

近藤富枝さんは、余程矢田津世子に心を奪われたのでしょう、「花蔭の人-矢田津世子の生涯」と彼女の伝記も書かれております。「本郷菊富士ホテル」によりますと、矢田は「うわぜいが高く、体格もすぐれ、目鼻立ちも美しく、いわゆる秋田美人で、色も白」かったのだそうで、そこで挿された写真から判断しますと、はっきりとした目鼻立ちは、宝塚の男役など似合うのではないでしょうか、と云いますのも、他の資料も含め、わたくしが見た彼女の写真すべてでネクタイを締めているのです。そんな麗しい方です。

消費することしか口にしないお初、ものを作り生み出してゆくということが身体に染み込み始めたお種、それらは今の街そのものにも通じる二面性なのかもしれません。


(注)イタリック体の箇所は、近藤富枝著「本郷菊富士ホテル」(中公文庫)より引用

posted by mniijima : Jun 18, 2007

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