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March 13, 2007

  春の嵐のなか、写美へ(2)

前日からの続き)

さて、写美の3階展示室で「"TOKYO" マグナムが撮った東京」を鑑賞した後は、みなで地階に降り、「第7回上野彦馬賞展」へ。これは九州産業大学と毎日新聞社主催による「九州産業大学フォトコンテスト」の入賞作品の展示。
まず展示室入口に掲示された3名の組写真のレベルの高さに驚きました。やりますねぇ。(それらはカラー作品でしたけれど)こういうレベルで作品を是非作りたいものです。

その他一般の部ではリアリズム系の作品が目立ちましたが、これは新聞社が主催に起っている影響でしょうか? このコンテストは「21世紀に羽ばたく若い写真家の発掘と育成を目的」として行われているそうなのですが、今世紀にあっても変わらぬ世界の惨状を杞憂する気持ちにどうのこうの発言するつもりはありませんが、写真の視点としての新しさ、若い写真家ゆえの鮮度がそこに垣間見えず、少し残念に思いました。
それに引き換え、学生さんの入賞作にはおもしろいものが多かったですね。表現としては拙いのですが、その発想のおもしろさ、今の時代でしか在り得ない、撮り得ない作品にずいぶん驚かされました。


ところで、この展示室の一画にはそれら若々しい作品と相対的に古い古い写真が並んでおりました。
それらはまさに上野彦馬氏(については産業能率大学のページ、あるいはwikiを参照されたし)ご本人が江戸末期から明治期にかけて撮影したポートレートと、長崎の風景、建築物の古写真で、長崎の「江崎べっ甲店」が所蔵しているアルバムからの展示だそうです。
上野彦馬氏はかの有名な坂本竜馬のポートレートを撮った写真家で、日本の写真開祖と称されておりますが、単に写真機を持って写し始めたのではなく、当時この国には存在しませんでした写真感剤をオランダの参考書を片手にいちから製造していったことが開祖と言われる所以なのでしょう。
当時はコロジオン湿板という(現在のフィルム代わり)感光材料の時代なのですが、単薬も調達することができない時代に、いかに製造してゆくか、その脅威の経緯については長崎大学薬学部のページに詳しく書かれております。
そして上野氏がこのコロジオン湿板の開発によって得たことは「舎密局必携」という書物にまとめ、出版しており、これは当時の最先端の化学実験書にして入門書であったそうで、先の長崎大学薬学部のページでは、

  「写真術を介して、彦馬が与えた日本の化学界への功績は計り知れない。」

と結ばれております。
(「舎密(せいみ)」とはオランダ語で化学を表すchemie(セミー)の音訳で、日本の化学の祖・宇田川榕庵による造語であると、長崎大学薬学部のページには記述されています。)

さて上野氏のコロジオン湿板から焼き付けられた写真は、当時の人々を知る上で恰好な資料なのでしょうが、背景と人物をより写真として成立させるべく、趣向を凝らした構図、写された人たちの表情とともに、完成されたポートレートと言ってよいのではないでしょうか? 
とくに町人と、武士のポートレート(異なる2点)が1点の額に収められた作品があったのですが、両人の表情の差には驚くべきものがありました。
また黒光りするような肌のシャドウ・トーンは独特で、目を惹いた点でもあります。
さらに建築物の描写では、時代を感じさせない詳細さがあり、コロジオン湿板恐るべしなのであります。

個人的には、今回この上野氏の写真を観ることができたのは、マグナムの展示以上に重要な体験であったと感じております。

参考までに上野氏の写真はWEB上、先にリンクさせました産業能率大学サイト内の、このページにて閲覧することができます。


※現代において、コロジオン湿板を復古させ、自身の創作活動に活かしていらっしゃる作家さん菅原一剛氏を以前拙ページにてご紹介しておりました。

posted by mniijima : Mar 13, 2007

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comments

こんばんは。リンク先の彦馬のページ、拝見しました。マグナムの写真展は未見ですが、「それ以上の体験」と形容されるお気持ち、なんとなく、判る気がしました。Webからでも感じるのですから、実物はそれ以上だったんでしょうね.....。

by marmotbaby : March 13, 2007 10:26 PM

marmotbabyさん、いつもコメントをありがとうございます。
いっぱい貼ったリンク先を以前目を通していて、上野彦馬氏の写真を是非見てみたかったので、なにぶん私情が含まれております。
それを超して、生の写真にはWEBでは判らない立体感、精密感などを感じられ、見る足を進めてゆくうちに僕の驚嘆は畏敬に変化いたしました。

by M.Niijima : March 14, 2007 11:33 AM

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